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山園小梅
衆芳 搖落(えうらく)して  獨り 暄妍(けんけん)として,
小園にて  風情を 占め盡くす。
疎影斜 水C淺(せいせん),
暗香浮動 月黄昏(こうこん)。
霜禽(そうきん)下らんと欲して 先づ眼を偸(ぬす)む,
粉蝶(ふんちょう) 如(も)し 知らば 合(まさ)に魂を斷つべし。
幸(さいわい)に 微吟の 相ひ狎(な)るべき 有り,
須(もち)いず 檀板(だんばん)の 金尊と共にするを。
h北宋の詩人


601山園小梅  林逋



 山の畑の小さな梅。作者が隠棲した杭州西湖の島にある孤山の庵の梅のことを詠った。

山園小梅  林逋

衆芳搖落獨暄妍,占盡風情向小園。


疎影斜水C淺,暗香浮動月黄昏。


霜禽欲下先偸眼,粉蝶如知合斷魂。


幸有微吟可相狎,不須檀板共金尊。



多くの草木に花葉が落ちてしまっているこの季節にただ一つ梅の花だけが美しく咲き誇り、小さな庭先の風情を独り占めにしている。
その枝は澄み切った小川にまだらな影を斜めに落とし、ほのかな香りは淡い月明かりの中をただよっている。
白い鳥が地上に降りようとしてこっそりあたりを見回す。白い蝶がもし、その花の白さを知ったなら気が遠くなるほど驚くだろう。
幸いなことに静かに吟ずるわが歌が梅の花と溶け合い拍子木を打ち鳴らす。歌声も酒樽も必要ないのだ。

真っ白な小鳥や蝶でさえ一目置く高貴な梅の白さ、さらさらと清らに流れる浅瀬に映る影、おぼろ月夜に漂うほのかな梅の香、この巧みな表現は絶賛されてきました。


(寒い冬の季節には)多くの花は散ってしまっているが、(梅だけは)ひとり、あたたかげで景色がよい。(梅は)小さな我が家の庭で、風雅の趣を独り占めしいている。
(梅の)疎らな枝振りは、清らかに澄んで浅い水面(みなも)に、横たわり斜めになっている。どこからともなくくる(梅の)香りが漂(ただよ)って、月に夕闇がせまっている。
(早春の)霜枯れ時の鳥は(梅に)降りようとして、(梅の木を繞る競争相手がいないかと)まず盗み見をする。
さいわいにも(梅はわたし=林和靖)の小声で詩歌を口ずさむのを聞き慣れていようから。(梅に対して、)(俗人のように)どんちゃん騒ぎをして、酒を飲み騒ぐようなことをする必要はない。 *俗人のように「檀板」(歌い騒ぐこと)や「金尊」(酒を飲んで騒ぐこと)等は、わたし(=林逋)には不必要なことである。
                       
衆芳 搖落(えうらく)して  獨り 暄妍(けんけん)として,
小園にて  風情を 占め盡くす。
疎影斜 水C淺(せいせん),
暗香浮動 月黄昏(こうこん)。
霜禽(そうきん)下らんと欲して 先づ眼を偸(ぬす)む,
粉蝶(ふんちょう) 如(も)し 知らば 合(まさ)に魂を斷つべし。
幸(さいわい)に 微吟の 相ひ狎(な)るべき 有り,
須(もち)いず 檀板(だんばん)の 金尊と共にするを。


林逋:北宋の隠逸詩人。西湖中の孤山(写真上三枚)に隠棲し、梅を妻とし鶴を子として過ごした。字は君復。諡は和靖。林和靖として世に知られる。杭州銭塘(現・浙江省杭州)の人。967年(乾徳五年)〜1028年(天聖六年)。

林和靖。『宋史・列傳・隱逸』には「林逋字君復,杭州錢塘人。結廬西湖之孤山,二十年足不及城市。嘗自爲墓於其廬側(写真:下)。既卒,仁宗嗟悼,賜謚和靖先生」とあるものの、梅を妻とし鶴を子としたことは、載っていない。

山園小梅:
山の畑の小さな梅。林和靖が隠棲した杭州西湖の島にある孤山の庵の梅のことになる。

衆芳搖落獨暄妍:
(寒い冬の季節には)多くの花は散ってしまっているが、(梅だけは)ひとり、あたたかげで景色がよい。 ・衆芳:多くのよい匂いの花。梅の花以外の多くの花を指す。 ・搖落:〔ようらく〕草木がひらひらと散る。物が揺れ落ちる。 ・暄妍:〔けんけん〕あたたかくて景色がよい。

占盡風情向小園:
(梅は)小さな我が家の庭で、風雅の趣を独り占めしいている。「占盡風情向小園」を「小園にて 風情を 占め盡くす。」と訓んだが、旧来の方法ではできないが、語法を重んじてこうした。 ・占盡:占め尽くす。独占する。 ・風情:風流。風雅の趣。情趣。風雅の味わい。南唐の李Uは『柳枝詞』で「風情漸老見春羞,到處消魂感舊遊。多謝長條似相識,強垂煙穗拂人頭。」 と詠う。 ・向:…に。…で。…に於いて。ここでの「向」は「於」と似た意味で、前置詞(介詞)。 ・小園:(自分の)小さな庭。わたしの狭い庭の中では、梅の花が、その高貴さ、脱俗の姿を誇っている。(広い世界のことは別として)。

疎影斜水C淺:
(梅の)疎らな枝振りは、清らかに澄んで浅い水面(みなも)に、横たわり斜めになっている。  ・疎影:疎(まば)らな影。梅の花を附けた枝振りの表現である。 ・斜:横たわり斜めになっている。梅の枝振りの表現である。 ・C淺:清らかに澄んで浅い。

暗香浮動月黄昏:
どこからともなくくる(梅の)香りが漂(ただよ)って、月に夕闇がせまっている。  ・暗香:〔あんこう〕どこからともなく漂ってくる香り。 ・浮動:軽く漂(ただよ)い動く。ここでは、梅の花の香の漂うさまのことになる。 ・黄昏:〔こうこん〕夕闇がせまる。たそがれになる。夕暮れになる。

霜禽欲下先偸眼:
(早春の)霜枯れ時の鳥は(梅に)降りようとして、(梅の木を繞る競争相手がいないかと)まず盗み見をする。 ・霜禽:〔そうきん〕霜枯れ時の鳥。 ・欲:…ようとする。 ・下:おりる。 ・先:まず。 ・偸眼:〔とうがん〕人目を盗む。盗み見をする。
粉蝶如知合斷魂:
(仲春に出てきて、梅に寄り附く)モンシロチョウがこのことを知ったら、きっと心を痛めることだろう。 ・粉蝶:〔ふんちょう〕シロチョウ科の総称。モンシロチョウ。 ・知:分かる。知る。 ・合:きっと…だろう。…すべきである。…するのがふさわしい。まさに…べし。 ・斷魂:〔だんこん〕大変心を痛めること。魂(たましい)が断ち切れるほどいたましいこと。

幸有微吟可相狎:
さいわいにも(梅はわたし=林和靖)の小声で詩歌を口ずさむのを聞き慣れていようから。 ・幸有:さいわいにも…がある。 ・微吟:〔びぎん〕小声で詩歌を口ずさむ。小さな声で詩歌をうたう。作者・林逋(林和靖)の行為。 ・可:…てもいい。…ことができる。べし。 ・相:…てくる。…ていく。動作が対象に及ぶ表現 。 ・狎:〔かふ〕したしむ。なれる。ちかづく。また、あなどる。かろんじる。ここは、前者の意。

不須檀板共金尊:
(梅に対して、)(俗人のように)どんちゃん騒ぎをして、酒を飲み騒ぐようなことをする必要はない。 *俗人のように「檀板」(歌い騒ぐこと)や「金尊」(酒を飲んで騒ぐこと)等は、わたし(=林逋)には不必要なことである。 ・不須:…する必要がない。…に及ばない。須ゐず。 ・檀板:〔だんばん;〕音楽を演奏するときに拍子をとるための板で、檀(まゆみ)の木でできている。ここでは、歌を歌うことを謂う。 ・檀:〔たん(だん)〕まゆみ。 ・共:…とを共にする。…と。 ・金尊:〔きんそん〕黄金の酒樽。黄金製の酒器。





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